声に出してよむ漢詩の名作50: 中国語と日本語で愉しむ (平凡社新書)

予想をはるかに超えた情熱と誠実で紡がれる漢詩の名作紹介本。 詩は半分音楽ですので、外国語の詩はできるならば原文で音読したいという愛好家の願いを平凡社ホームページの音声と本書の白文に丁寧に振られたピンインが叶えてくれます。多謝!!ホームページから聴ける朗読はしっかりと感情の籠められた真剣そのものの大迫力の音声だったもので、本書を自宅でチョロチョロ音読していたおのれの半端な態度を恥じました。本書を購入せずとも聴けますので、少しでも関心のある方はぜひ聴いてみてください。こうした素晴らしい漢詩を残している中国の士大夫たちは、その人格の高貴さゆえに、９割がた不遇な人生を歩んでいます。保身や我欲の権化のような官がんや政敵たちによって讒言をされたり左遷をされたり、あるいは我儘な皇帝の理不尽な怒りを被ったりとむごい目に遭わされながらも（詩人ではないですが、『史記』の作者である歴史家・司馬遷も、友を庇う誠実さのゆえに皇帝の怒りを買い、宮刑に処せられました）、それでも決して節を、信念を曲げずに、自身の選択が招いた代償としての不遇を毅然として受け入れてきたのです。そしてそんな詩人たちは人々から主よりも筋を重んじ、一身の安堵よりも国家と民の生活を憂いた高潔さによって高い尊敬を受けてきました。わたしも彼らを尊敬してやまないひとりですが、著者の荘さんの語りからも詩人たちへの熱い敬意が伝わってきて、ぐっときます。 世人の大多数よりも純粋で率直であるがゆえに権謀術数渦巻く宮中政治の世界の醜悪さを肯んじることができず、敗残という自らの宿命を承知で巨大な権力に逆らい野に下り、誇りを失わずに－頭をあげ胸を張って、おのれの天命に殉じるかのように雄々しく敗れてゆく人たち。尊敬するフランスの作家ロマン・ロランは「敗北者の方が気高いということがあるものです」と言いましたが、この人たちを見ていると、まさにその通りであるとの思いを深くします。自分のちょっとした不遇など、彼らに比べればしょうもない風邪のようなものだなと思えてきます。李白、杜甫、王維、杜牧、白居易、柳宗元、陶淵明などの超有名詩人から（李白と杜甫は最も収録数が多いです）、項羽のような武将から張若虚という知る人ぞ知る詩人、また市井の女流詩人までバランスよく、何より愛をもって詩が選択され愛をこめて紹介されている素晴らしいアンソロジー詩集であると思いますので、ぜひご一読ください。